「日本政策金融公庫の創業融資を受けるには、自己資金はいくら必要?」「自己資金が少ないと融資を受けられない?」「親からもらったお金は自己資金になる?」
創業融資を検討するとき、多くの方が気になるのが「自己資金」です。
インターネット上では「創業資金の2割必要」「3割あれば安心」といった情報も見かけますが、日本政策金融公庫が一律に「自己資金○割以上なら融資可能」という基準を示しているわけではありません。
一方で、自己資金は創業時の資金計画を考えるうえで重要な要素です。
今回は、日本政策金融公庫の創業融資における自己資金について、金額の考え方、貯め方、親から援助を受けた場合などを解説します。
創業融資の自己資金はいくら必要?
結論からいうと、「自己資金が○万円以上」「創業資金の○割以上」と一律に考えることはできません。
日本政策金融公庫も、自己資金について重要な要素の一つとしながら、自己資金以上に創業計画全体がしっかりしていることが重要と案内しています。
そのうえで、公庫が公表している融資先の調査では、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均でおおむね2割程度となっています。
ただし、この「約2割」という数字は、実際に融資を受けた企業の平均値であって、「2割あれば融資を受けられる」「2割なければ融資を受けられない」という審査基準ではありません。
自己資金だけでなく「必要資金と借入額のバランス」を考える
自己資金について考えるときは、「何割用意すればいいのか」だけを見るのではなく、事業を始めるために必要な資金全体から考えることが重要です。
例えば、開業に1,000万円必要で自己資金が200万円ある場合、残り800万円をすべて借入で調達するのであれば、その800万円を返済しながら事業を続けられる計画になっているかを考える必要があります。
反対に、自己資金が200万円しかなくても、開業規模を見直して必要資金を500万円に抑えることができれば、借入額も変わります。
大切なのは自己資金の割合だけではなく、
- 開業に本当にいくら必要なのか
- 自己資金をいくら投入するのか
- いくら借りる必要があるのか
- 借入後の返済を続けられる計画なのか
- 創業後の運転資金に余裕があるか
を一緒に考えることです。
自己資金をすべて事業に投入しない
「自己資金が300万円あるから、300万円すべてを開業資金として使う」という計画が必ずしもよいとは限りません。
創業直後から計画どおりに売上が上がるとは限らず、予定していなかった支出が発生することもあります。
また、個人で創業する場合には、事業資金だけでなく、自分や家族の生活費も必要です。
【元銀行員として】
創業時には「借りられるか」だけではなく、融資を受けた後に資金が回るかまで考えることが大切です。
自己資金をすべて事業に投入してしまうと、創業後に売上が計画を下回った場合や、予想外の支出が発生した場合に対応できなくなることがあります。
事業に必要な運転資金とあわせて、自分や家族の当面の生活資金をどの程度確保しておく必要があるのかも考えておきましょう。
自己資金は「現在の残高」だけで考えない
自己資金については、単に申込時点の預金残高だけではなく、その資金をどのように準備したのかを説明できる状態にしておくことが大切です。
例えば、給与から少しずつ貯蓄してきた資金であれば、預金口座の履歴などから資金形成の経緯を説明しやすくなります。
退職金や資産の売却代金などを自己資金に充てる場合にも、その資金がどこから入ってきたのか確認できる資料を残しておくと説明しやすくなります。
創業を決めた段階から、事業用に準備する資金については、できるだけ資金の動きが分かる形で管理しておくとよいでしょう。
申込直前に大きな入金がある場合は出所を説明できるようにする
融資の申込直前に預金口座へ大きな入金があった場合には、その資金がどこから来たのか説明できるようにしておきましょう。
例えば、別の自分名義の預金口座から移したのであれば、その口座の履歴を確認すれば資金の流れを説明できます。
退職金であれば、勤務先から支給されたことが分かる資料などが考えられます。
一方、一時的に第三者からお金を借りて預金残高を多く見せ、それを自己資金として説明する、いわゆる「見せ金」は避けるべきです。
【元銀行員として】
預金残高だけを整えるのではなく、「このお金はどこから来たのか」を自分で説明できる状態にしておくことが重要です。
自己資金として説明するのであれば、実際に自分で準備した資金であることが前提です。申込直前だけ残高を増やすために第三者から借りるような方法はやめましょう。
タンス預金は自己資金として説明できる?
「銀行には預けていないが、自宅に現金で貯めていた」というケースもあります。
この場合に問題になるのは、単に現金で保管していたことではなく、そのお金をどのように貯めたのかを客観的に説明できるかという点です。
銀行口座で毎月積み立ててきた預金と比べると、現金で保管していた資金は形成過程を確認しにくくなります。
「自宅に300万円ありました」という説明だけでは、その資金がいつ、どのように形成されたのかを説明することが難しい場合があります。
創業資金をこれから準備するのであれば、資金の形成過程が分かるように預金口座を利用して管理しておく方が説明しやすいでしょう。
親や親族からもらったお金は自己資金になる?
創業時に、親や親族から資金援助を受けることもあります。
この場合には、「もらったお金」なのか「借りたお金」なのかを明確にしておく必要があります。
親から贈与を受けた場合
返済する必要のない贈与であれば、自分で返済しなければならない借入とは性質が異なります。
ただし、単に「親からもらいました」と説明するだけではなく、親から本人への振込記録など、資金の移動が分かるようにしておくと説明しやすくなります。
また、親から資金の贈与を受けた場合には、融資だけでなく贈与税についても確認が必要です。
金額や過去の贈与状況などによって税務上の取扱いが変わるため、創業資金の援助を受ける場合には事前に確認しておきましょう。
親から借りた場合
親から受け取ったお金でも、後で返済する約束になっているのであれば借入です。
返済義務のある資金を、自分で貯めた自己資金と同じように扱うことはできません。
親族からの借入についても、返済条件を含めて創業後の資金繰りを考える必要があります。
すでに創業のために支払ったお金はどうする?
融資を申し込む前に、創業準備として自分のお金から支払いをしていることもあります。
例えば、
- 店舗・事務所の保証金
- 設備・備品の購入代金
- 内装工事の着手金
などです。
こうした支出がある場合には、契約書、請求書、領収書、振込記録などを保管し、「いつ、何のために、いくら支払ったのか」が分かるようにしておきましょう。
すでに支払った創業関連費用をどのように取り扱うかは、支出内容や申込内容によって確認が必要です。「支払済みなら必ず自己資金として加算される」と考えるのではなく、資料を整理したうえで公庫に確認しましょう。
自己資金が少ない場合はどう考える?
自己資金が少ない場合に、「業界経験が長ければカバーできる」「創業計画書を上手に作れば大丈夫」と単純に考えるのはおすすめできません。
まずは必要資金そのものを見直してみましょう。
- 開業当初から本当に必要な設備なのか
- 設備を中古品に変更できないか
- 店舗や事務所の規模を見直せないか
- 開業当初の固定費を抑えられないか
- 売上が計画を下回った場合でも資金が回るか
- 借入金の返済を含めても事業を継続できるか
創業時には「あれも必要、これも必要」と設備を増やしたくなりますが、借入額が増えれば創業後の返済負担も増えます。
必要なものと、事業が軌道に乗ってから購入できるものを分けて考えることも大切です。
自己資金だけで融資の可否が決まるわけではない
自己資金は創業融資を考えるうえで重要ですが、それだけで融資の可否が決まるわけではありません。
創業計画では、
- 創業する事業での経験
- 商品・サービスの内容
- 売上・経費の見込み
- 設備資金・運転資金の必要額
- 自己資金と借入金のバランス
- 創業後の資金繰り
などを含めて、計画全体を考える必要があります。
「自己資金が○割あるから大丈夫」「○割ないから無理」と判断するのではなく、なぜその金額が必要で、どのように事業を成り立たせるのかという視点で創業計画を作りましょう。
まとめ|自己資金は「何割あるか」だけで考えない
日本政策金融公庫の融資先に関する調査では、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均でおおむね2割程度となっています。
ただし、この数字は融資を受けるための最低基準ではありません。
自己資金については、
- 必要な創業資金はいくらなのか
- そのうちいくらを自己資金で準備するのか
- いくら借りる必要があるのか
- 資金をどのように準備してきたのか
- 創業後の運転資金や生活資金を確保できているか
まで含めて考えることが大切です。
「自己資金をいくら用意すれば融資を受けられるか」ではなく、「この資金計画で創業後も無理なく事業を続けられるか」という視点で考えてみましょう。









