「天皇陛下にも相続税はかかるのでしょうか?」
皇室の財産というと、一般の相続とはまったく違う制度のように思われるかもしれません。
確かに、皇位とともに承継される一定の財産については、相続税がかからない特別な規定があります。
しかし、皇室に関係する財産だからといって、すべて相続税が非課税になるわけではありません。
実際、昭和天皇の相続では遺産総額が公表され、上皇陛下(当時の天皇陛下)が納付された相続税についても、後の国会審議で具体的な金額が取り上げられています。
今回は、昭和天皇の相続を例に、皇室と相続税の関係を見てみましょう。
天皇陛下にも相続税はかかる?
結論からいうと、皇室に関係する財産がすべて相続税非課税になるわけではありません。
相続税は原則として、相続や遺贈によって取得した現金、預貯金、有価証券、土地、家屋など、金銭に見積もることのできる経済的価値のある財産に対して課税されます。
皇室の場合も、一定の非課税財産を除き、相続税の対象となる財産があります。
皇位とともに承継される一定の財産は非課税
一方、皇室には一般の相続にはない特別な非課税規定があります。
相続税法では、「皇室経済法第7条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物」について、相続税を課さないこととしています。
三種の神器など、皇位とともに承継される一定の財産がこれに関係します。
ただし、これは「皇室の財産はすべて非課税」という意味ではありません。
三種の神器と相続税については、別の記事「三種の神器に相続税はかかる?皇位とともに承継される財産と相続税」で詳しく解説しています。
【参考】国税庁・税務大学校「相続税法」
昭和天皇の遺産総額は18億6,900万円
では、実際の皇室の相続では、どのくらいの財産が相続の対象になったのでしょうか。
昭和天皇が崩御されたのは、昭和64年(1989年)1月7日です。
その後、共同通信社の年表によると、平成元年(1989年)7月7日に宮内庁が昭和天皇の遺産総額を発表し、18億6,900万円だったことが記録されています。
【出典】渋沢社史データベース「共同通信社年表」―1989年7月7日「宮内庁が昭和天皇の遺産総額を発表」
相続税は約4億2,800万円とされています
昭和天皇の財産を相続された上皇陛下(当時の天皇陛下)が納付された相続税については、約4億2,800万円とされています。
この金額については、平成31年(2019年)3月19日の参議院財政金融委員会でも取り上げられています。
国会会議録には、渡辺喜美議員が当時の新聞記事を示しながら、昭和天皇の財産を相続された当時の天皇陛下について、「四億二千八百万円」を納税した旨を発言したことが記録されています。
【出典】国会会議録検索システム「第198回国会 参議院 財政金融委員会 第4号」渡辺喜美議員発言(2019年3月19日)
4億2,800万円は国税当局の公式発表ではない
ここは少し注意が必要です。
約4億2,800万円という金額は、国税当局が個別の納税額として公式に公表したものではありません。
国会会議録を見ると、渡辺喜美議員が当時の新聞記事を示したうえで、この金額に言及しています。
そのため、本記事では「約4億2,800万円を納付されたとされています」という表現にしています。
相続税の個別の申告内容や納税額には税務上の守秘義務が関係するため、公表資料を見る際には、誰が、どの資料を根拠に公表・発言している数字なのかを確認することも大切です。
遺産18億6,900万円に対して相続税4億2,800万円?
「遺産総額が18億6,900万円なら、なぜ相続税が4億2,800万円になるのでしょうか?」
相続税は、単純に「遺産総額×一定の税率」で計算する税金ではありません。
相続税を計算するときには、相続税の対象となる財産、非課税財産、債務や葬式費用、相続人の構成、各人が取得した財産などをもとに計算します。
また、相続税には累進税率が採用されており、課税される金額が大きくなるにつれて適用される税率も高くなる仕組みです。
したがって、遺産総額と相続税額の数字だけを見て、単純に税率を逆算することはできません。
【税理士からのコメント】
皇室の相続というと、一般の相続とはまったく違う世界の話に思えます。
確かに、皇位とともに承継される一定の財産には、一般の相続にはない特別な非課税規定があります。
一方で、「財産のすべてが相続税非課税になるわけではない」という点を見ると、一般の相続税にもつながる部分があります。
一般の相続でも、預貯金、不動産、生命保険金、死亡退職金など、それぞれの財産について相続税上の取扱いを確認し、非課税財産や各種特例を考慮しながら税額を計算します。
「財産がいくらあるか」だけでは、相続税がいくらになるのかは分かりません。どのような財産を、誰が、どのように相続するのかまで確認することが重要です。
まとめ|皇室でもすべての財産が相続税非課税になるわけではない
皇位とともに承継される一定の財産については、相続税法上、相続税が課税されない特別な規定があります。
しかし、皇室に関係する財産だからといって、すべて相続税が非課税になるわけではありません。
昭和天皇の相続では、遺産総額18億6,900万円が公表され、上皇陛下(当時の天皇陛下)は約4億2,800万円の相続税を納付されたとされています。
なお、約4億2,800万円という金額については国税当局による個別の納税額の公式発表ではなく、当時の新聞記事をもとに国会審議で言及された数字である点には注意が必要です。
少し特殊な皇室の相続ですが、「相続した財産のすべてが同じように課税されるわけではない」という相続税の仕組みを知るうえでも、興味深い事例といえるでしょう。
参考資料・出典
- 国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」
- 国税庁・税務大学校「相続税法」(皇室経済法第7条により皇位とともに皇嗣が受けた物の相続税非課税)
- 渋沢社史データベース「共同通信社年表」(昭和天皇の遺産総額18億6,900万円)
- 国会会議録検索システム「第198回国会 参議院 財政金融委員会 第4号」渡辺喜美議員発言(約4億2,800万円の相続税への言及)









